カツモクエイガ2作品かいせつ3 「ネコハコベフジワラさん」

2日目解説はMayFlyNo.003「ネコハコベフジワラさん」です。

昼ノ部・夜ノ部で公開(2007年〜2008年制作)

予告篇
http://vision.ameba.jp/watch.do?movie=751069

あらすじ
冬。早朝。

大阪へ引っ越してきた女子高校生フジワラさんと、同級生のハコベくん。
2人は日直当番のために共に登校する。

けれども今朝はとても奇妙なことばかり起こる。突然の地震、突然の猫。突然の猫のおしゃべり。
突然の猫の浮遊。

猫になりたい男子
猫が大好きな女子

それと猫が起こす
不思議でちょっぴり可愛い奇跡。


きっかけは、やはりCO2。CO2というのはシネアシストオーガニゼーション大阪の略。
簡単に言ってしまうと大阪市を映画文化で盛り上げよう。といったところか。
http://www.co2ex.org/


特筆すべきは「企画制作部門」。これは映画監督を目指す者、もはやプロの者問わずに企画を募集し、
選出された企画は助成金を予算補助として出して頂ける上に上映までして頂けるという素晴らしい企画。


僕はそこに飛びついた。・・・わけではなかった。
2007年夏。PFFで知り合ったヨモスガラブフィルムズhttp://www.yomosuga-love.com/の制作する
短編映画撮影に制作スタッフとして参加した際。ヨモスガラ〜の岡くんによってCO2の詳細を聞かされた。
第四回CO2の企画制作部門〆切は合宿撮影最終日に速達で発送すれば間に合う。
僕「うーん。無理だろーね。何にも考えてなかったし。企画制作部門には過去の作品も出さなきゃいけないやろ?持って来てないし」
(撮影場所は京都の山奥)
岡くん「『ニューヘアー』のDVDなら持ってる。プリンター、パソコンも合宿するところに常設してるよ」
こうして、昼間は灼熱地獄と襲いかかるハチたちから役者達を守り、夜は撮影準備、深夜は企画を考える。という
アバンギャルドな5日間が始まった。(正直、日数覚えていない)


そして最終日前夜に仕上がった企画が「ネコハコベフジワラさん」(当初は「ネコウミ」というタイトルだった)だったのである。
どう考えついたのか?全く覚えていない。
且つて鳥山明氏が「Dr.スランプ」連載時に高熱を出して、無意識に描いた回があり、『どうやって描いたか覚えていません』
と言っていたが、あの気持ちがよくわかる。


応募後、応募総数をホームーページで調べると70本近く応募があった。
これは厳しいぞ。たった5日間の付け焼き刃が通用すんのか?と思っていたら、5本の企画制作部門作品に選出。


なんということだ!と慌てて、「イートスリープクリープ」でお世話になった皆さんに連絡。
撮影の境さん、音声の石川くん、主演だったまどさんはケータリング(食事係のこと。まどさんの料理は死ぬほどウマいのです)
岡くんは助監督として参加。
撮影は大阪で。ということになり、大阪でのスタッフ集めも始まった。
まずはヨモスガラ〜の撮影時に知り合った、らもさん。若いが意気込みは素晴らしい青年だ。制作スタッフとして参加を許諾していただく。
さらにボランティアとして伊藤さん、当時は映画監督・河瀬直美さんの事務所で働いていた、じくさん。
しっかりした女子制作陣が加わり、僕が徳島にいる間はこの製作陣が様々な下準備に動いて下さった。


どんどんスタッフが決まる中、役者が決まらない。というのも、普段は誰か役者を決めてからシナリオを描いていたのに
対して今回は全く想像だけで描いてしまったのだ。
大阪でのミーティング時に
岡くんに「ハコベくんはこういう感じの男の子がイメージなんやけど」と少年アシベを大人にした感じの高校生男子を絵で描いてみせた。
すると岡くんが「これって、中村 無何有(むかう)くんだよ!」と叫ぶ。


無何有くんは石井裕也監督(「ばけものの模様」「川の底からこんにちは」)の助監督をされたり、役者としても出演されていた青年。
ちょうどその日に無何有くんは大阪に来ているらしく、すぐ会いにゆくことに。そんなイメージ通りでもないでしょうに。
と思っていたが、会ってみてびっくり。僕が産み出したのか!?と思うくらいイメージ通り!物腰も柔らかく、好青年だった彼に
「是非お願いします!」とシナリオを渡したのだった。その後、あっさり許諾。


さて問題はフジワラさん役である。プロに近い女優さんにお願いできれば。とも思ったがあんまり器用すぎるというか
業界慣れした方ではおもしろくないなあ。などと考えていた。
「ニューヘアー」のムラハシくんに猫のCG合成を依頼した際に「喜多さんはどう?」と紹介されたのが喜多 香乃実さん。
事情があってずっと接してきた演劇から離れてしまい、そういった刺激を求めている。ということなので、会ってシナリオを読んで
頂くことに。会ってみたら、なんともあどけない女子。イメージとしてはハコベくんと並べると似合いそうだけど、
映画出演なんて物怖じされてしまうかなあ。と不安に思っていたが、その場でぺろりとシナリオを読んだ彼女は


「こういうの、大好きです。やりたいです」
はきはき答えた。この答えが強過ぎたり弱過ぎたりしたら、お願いしてなかったのかも。と思う。
ひたむきな姿勢と、適度な距離感。このバランスが彼女の強みかもしれん。と思い、オファーしたのだ。
実際、喜多さんは現場でも堂々としたものだった。多くのスタッフに囲まれても決して浮かれず、真摯に映画づくりに向き合っていた。
演技以前にその姿勢を大事にしていた彼女に触発されて、皆とても良い空気で撮影に臨めた。


そして猫の声。これはメジャーな役者さんを!というCO2側の熱望を受けて、京都の人気劇団・ヨーロッパ企画の役者・本多 力さんにオファーをかけた。本多さんは映画版「サマー・タイムマシン・ブルース」での存在感に惚れ込んでしまったのである。当初は皆にあの猫の声は変だよー。と(本多さん本人にも言われた・・・)あまりウケが良くなかったが、
数年後、本多さんはアニメ「四畳半神話大系」で声優としても活躍された。だからどうだ。と言われるとアレだけど・・・。


とにかく準備オーケー。というわけで撮影は大阪にてまたもや合宿撮影!
撮影の様子は以下のリンク日記から全日数分読んでいけます。どうぞ。
http://d.hatena.ne.jp/lostyami/20071221


完成後は喜多さんが見事最優秀主演女優賞を獲得!(無何有くんの相手役は皆さん受賞してしまえるそう)
先日書いた通り「イートスリープクリープ」東京上映のきっかけにもなった。


作品としてはスタッフワーク制作ということもあり、とても見易くなったと思う。
その底でぶきみな闇がうごめいていて、妙に饒舌で、ハイテンションともいえないが常軌を逸したテンションで・・・。
でも見終わったあとは何だか「かわいい」気分になってしまえる映画だと思う。デートにいいのでは?
猫嫌いなひとはご遠慮くださいませ・・・・。