シナリオ直し

 AM0:00。新作映画(自主制作)のシナリオ直しの打ち合わせをH氏とする。H氏はおそらく僕より6歳年上で、以前勤めていたバイト先で知り合った人だ。恐ろしい程の采配力と知能を持っており、音楽、映画、文学の知識の深さも相当なものである。僕が自主制作映画を作っているのを知って、興味を持っていただいて、製作サイドで参加してもらったのだが、急遽、役者としても参加してもらうことになったのだ。
 
 綿密な直し会議はH氏がシナリオの穴を指摘し、僕がそれを具体的に直していく作業となるのだがこれがまたスムーズに進み、お互い納得のいく、というか予想を遥かに超えた出来となった。

 推敲したシナリオを前にしてみると、以前のシナリオを使うなど笑止千万。物事はよく考えて決定するものだ。いかなる逆境でもくじけず、冷静に考える。孔明のごとく。て三国志はよく知らんのだが。何かそれっぽいぐらい深く考えるべきなのだ。

 そう考えると以前付き合っていたYには悪いことをしたとつくづく思う。Yと僕の間に何があったかは別として、とにかく少なくとも僕は冷静さを欠いていた。帰宅中の車の中、激しい後悔の念が僕を襲う。ここはひとつYと始めてドライブした海へ行ってみようではないか。どこがひとつなのかよくわからんが深夜2時間かけて目的の海へと。

 星がすごかった。Yと来た時は夏前でしかも曇りだったから、こんな星空ではなかった。
 「帰るか」と二人は車に乗り。長い沈黙。二人はまだ「付き合う」とかは決めていなかった知り合い同士だった。何故かそこで僕は告白して、ムニャムニャしてるYを置いてトイレに行った。
 今は一人。思うことはただ1つ。「怖い!」トイレなんてあの時よく一人で行ったもんだ。
 Yは一旦僕の申し出を断った。どうやら前の彼氏でつらい思いをしたらしい。「そうか」と思いつつも、僕はその後Yに抱きついてキスして二人は付き合うことになった。
 Yと付き合うまでの女性と付き合う経験というのは実に7年前で、僕もYと形は違えど以前のことを引きずって女性を避けてきた。その考えを直してくれたのはYを含む様々な友人たちで、僕はみんなに感謝している。例えつらい別れになってしまったとしても、僕は前進した。しかしYはどうなんだろうか?ひどいことを言ってしまった。今僕がトイレに一人で行けないのと同じように、どこかで明かりを失って立ち止まっているのだろうか?
 否。Yは強い。そして優しい。混乱しながらも僕を最後まで気遣ってくれたし、笑っていてくれた。それを破壊した僕は弱いし、クズだ。今、僕がYのことを思うだけでもYを傷つけているのに、それが分かっていながらも尚もひきずる性根の悪さ。

 星がきれいなのと不気味なのとを理由にしておいて、悶々と込み上げるクズへの怒りをごまかしつつ僕は帰路についた。

 それにしても夜の海。ひとりとふたりではこうも違うものなのか。怖かった。