『サッドティー』(今泉力哉監督)を観て来た。

『サッドティー』(今泉力哉監督)を観て来た。

ぐるぐる巡る、恋愛模様はそのままに、より人物たちの肉体性が削られていた。
これは視点をずらせば彼ら彼女らの肉体性が観えてくるのだけど、敢えてそれをやっていない感じ。
肉体を伴わないたましいだけの言葉のやりとりが退屈を通り過ぎて、おそろしくも感じる。冷めたお茶、寂しいお茶とはこのことなのかしら。

ものがたりの中で、肉体を使うひとがふたり。古着屋とカフェでバイトをして暇をつぶしている棚子は、とある男が買おうとした服を突然着てみせる。この仕草があほらしくて唐突でとてもかわいい。
ただ服を着て脱ぐだけでもこんなに魅力が出るのはそれまでに徹底的に肉体の関係を見せなかったからだろうか。演じていた青柳文子さんがかわいいからか。
この後、男の子が恋に落ちるのだけど、そりゃそうだね。と思う。

あと1人は朝日くん。彼は競歩を使ってとある場所へ向かう。
それまでも、なんだか体から言葉を発しているような男で、逆に「こいつ本心しゃべってる?」と疑ってしまう。

ふたりとも肉体は使うがどこか空虚でおかしい。でも、魅力的である。ぼくはこのひとたちがとても好きになってしまったし、この人たち以外のひとたちは「ふん、生ける屍め」「この透明人間め」(文字通り透明なやつも出て来て爆笑した)と思ってみていたのでとても楽しかった。

願わくば、主人公の彼を突き動かす動機がむくりと観ている僕らのきもちに揺さぶりをかけてくれればよかったのだけど、冷めたお茶にはそんな効能ないのかもなぁ。

ぼくはよく、演者のまばたきを気にするのだけど國武綾さんという方のまばたきの使い方はとてもきれいで、うっとりしてしまった。彼女は『恋の渦』にも出演されていたのだけど、やっぱり瞬きがすばらしかったなぁ。